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横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)2185号 判決

原告

正木洋子

ほか一名

被告

横浜市

主文

被告は原告正木洋子に対し、金六四六万六三三五円及びこの内金五八六万六三三五円に対する昭和五三年九月一日から、内金六〇万円に対する本判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

被告は原告正木嘉久に対し、金一〇四万一八六六円及びこの内金九四万一八六六円に対する昭和五〇年一月一四日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告正木洋子、同正木嘉久のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その一を原告両名の負担とする。

この判決の第一、第二項は仮りに執行することができる。

事実

第一双方の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は原告正木洋子に対し、金二六四六万一三七六円及びこの内金二三四二万一三七六円に対する昭和五三年九月一日から、内金三〇四万円に対する一審判決言渡の日の翌日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告正木嘉久に対し、金四三一万一一三一円及び内金三五五万一一三一円に対する昭和五〇年一月一四日から、内金七六万円に対する一審判決言渡の日の翌日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二双方の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生時 昭和五〇年一月一四日午前七時四〇分頃

場所 横浜市磯子区洋光台二―一三―三八先市道

加害車 横浜市営定期バス(横浜二二か一七四)

右運転者 石原統一

被害者 原告洋子

態様 被害者が乗車していた加害車の運転手石原が、道路脇に駐車していた大型トラツクに追突し、そのシヨツクで乗客が将棋倒しとなり、原告洋子は頭部外傷、全身打撲(一時意識不明)、顔面切傷(縫合六針)の傷害を蒙つた。

2  責任原因

(一) 被告は、加害車を所有し、市営定期バスとして自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任がある。

(二) 被告の被用者である石原統一が、加害車を被告の市営定期バスとして運行中、ハンドル操作を誤つた過失によつて追突したものであるから、被告は民法七一五条一項、国家賠償法一条の責任がある。

3  損害

(一) 原告洋子 合計金二六四六万一三七六円

(1) 後遺症による逸失利益 金一四九一万一三七六円

原告洋子の症状は、昭和五三年八月二四日固定したが、顔面の傷は女子の外貌に醜状を残すものとして、自賠法別表後遺症等級一二級一四号に、むちうち症は局部に頑固な神経症状を残すものとして同一二級一二号に該当し、その併合により同一一級となり、その労働能力喪失率は二五パーセントである。

原告洋子は、事故時一六歳であつたが、現在大妻女子大学四年生で、昭和五七年三月卒業予定である。原告洋子が通常の経過で卒業したならば二三歳から六五歳まで四九年間稼働可能である。

その間原告洋子は、症状固定時の賃金センサスの大学卒の平均統計をもとにし、これから五年毎の基準をとり、各年度毎にホフマン式計算法によりその逸失利益を計算すると別表一逸失利益計算書のとおりである。別表の計算式の分母を構成する中間利息分の控除については、症状固定時期から順次増加するという方式をとり、かつ遅延損害金も右と同時期より請求することとした。

(2) 慰藉料 金八五一万円

原告洋子は、本件事故の治療のため、磯子中央病院に昭和五〇年一月一四日から同年三月一三日まで入院し、その後通院治療を受けながら同年四月から通学したが勉学に耐えられず、昭和五〇年四月二〇日から同年七月二〇日まで再入院した(入院日数計一五一日)。その後同病院に通院加療(実日数二一七日)を受けながら、針の通院治療(実日数一五七日)を受けたが、前記のように後遺症があり、特に顔面の傷痕は結婚前の女子として大きな精神的苦痛を蒙つた。

又原告洋子は本件事故当時県立緑丘高校一年生で、将来教師を志望し、横浜国立大学教育学部をめざしていたが、一年生の三学期はほとんど欠席し、二年に進級したが治療のため休学し、そのため志望校に入学できなかつたもので、これがため蒙つた原告洋子の精神的苦痛は極めて大きかつた。

これらの事情から、原告洋子の慰藉料は金一〇〇〇万円が相当であるところ、自賠責保険から金一四九万円の支払を受けたので、その残額金八五一万円を請求する。

(3) 弁護士費用 金三〇四万円

(二) 原告嘉久の損害 合計金四三一万一一三一円

(1) 原告洋子の入院雑費 金一二万九三二五円

(2) 原告洋子の治療費

(イ) 大船共済病院 金四〇三二円

(昭和五〇年五月二九日から同月三一日まで)

(ロ) 松野針灸医院 金九六〇〇円

(昭和五三年四月七日、同年七月一七日、昭和五四年一一月一七日、同年一二月三日)

(ハ) 磯子中央病院 金四三四〇円

(昭和五五年一月一六日、同年二月五日、同年一二月二一日、同月二九日)

(ニ) 虎ノ門病院 金六三五四円

(昭和五五年二月一二日、同月二二日、同年三月二五日)

(3) 入通院交通費

(イ) 原告洋子の前記の入院期間中、家族が自宅から磯子中央病院まで通つた一五一日分(一日金二〇〇円)金三万二〇〇円

(ロ) 原告洋子が昭和五〇年六月七日から同年一一月三一日までの間針治療のため、家族が付添つた交通費

自宅から横浜市南区中村町まで金六九五〇円

自宅から東京都葛飾区亀有まで金六〇〇〇円

自宅から東京都五反田まで金七二〇〇円

自宅から藤ケ崎療院まで金二〇〇〇円

自宅から松野療院まで金一八〇〇円

(ハ) 原告洋子が昭和五〇年五月二九日から同月三一日まで三日間大船共済病院に通院した交通費金五六八〇円

(ニ) 原告洋子が松野針灸医院に昭和五三年四月七日、同年七月一七日、昭和五四年一一月一七日、同年一二月三日通院した交通費金四六四〇円(大妻女子大寮から上大岡まで金一一六〇円)

(ホ) 磯子中央病院に原告洋子が昭和五五年一月一六日、同年二月五日、同年一二月二一日、同月二九日通院した交通費金一七六〇円(自宅から病院まで一日金四四〇円)

(ヘ) 原告洋子が虎ノ門病院に昭和五五年二月一二日、同月二二日、同年三月二五日通院した交通費金三四八〇円(自宅から病院まで一日金一一六〇円)

(4) 家族付添費

(イ) 事故当日の昭和五〇年一月一四日原告洋子が入院のため家族が付添つた費用金二〇〇〇円

(ロ) 昭和五〇年五月二九日から同月三一日まで三日間原告洋子が大船共済病院における通院治療のための家族付添費用金三〇〇〇円(一回一〇〇〇円)

(ハ) 昭和五〇年六月七日から同年一一月三一日まで原告洋子が針治療のための通院に家族が二〇回付添つた費用金二万円(一回一〇〇〇円)

(5) 医師看護婦謝礼 金五万一一二〇円

(6) 電話代

原告洋子の入院中病院から自宅への電話代金六七〇〇円、自宅から病院への電話代金六〇〇〇円

(7) 物品等の損害

(イ) 市バス定期 金五一三〇円

(ロ) 国鉄定期 金三七〇〇円

(ハ) YMCA授業料 金一万九六〇〇円

(ニ) 薬品(ベトネネーム) 金九八〇円

(ホ) クリーニング代 金二五〇〇円

(ヘ) 時計 金一万四五〇〇円

(ト) 制服 金二万四〇〇〇円

(チ) オーバー・靴 金二万七〇〇〇円

(リ) ブラウス・下着・靴下 金一万二六〇〇円

(ヌ) 鞄 金一万二〇〇〇円

(ル) 眼鏡 金二万円

(オ) 弁当箱 金一三〇〇円

(8) 原告洋子の休学等による損害

別表二休学したことによる損失経費記載のとおり金六六万六二二〇円。

(9) 原告洋子の休学及び進学が一年遅れたために生じた損害

(イ) 受験料の値上がりによる損失 金五〇〇〇円

中央大学分 金三〇〇〇円

共立女子大学分 金二〇〇〇円

(昭和五二年度分と昭和五三年度分の差額)

(ロ) 療養、休学のため学力低下による不合格を慮り、多くの学校を受験することを余儀なくされたため生じた受験料損

受験料一校金一万五〇〇〇円の三校分金四万五〇〇〇円。

(ハ) 学費が値上がりしたことによる損失

大妻女子大学の昭和五二年度と昭和五三年度の入学金、授業料その他の費用の差額金七万円。

(ニ) 寮費の値上がりによる損失

大妻女子大学の昭和五二年度と昭和五三年度の寮費の差額金四万円。

(ホ) 昭和五三年度に国立大学に入学できなかつたことによる損害

大妻女子大学と国立大学との四年間に納入すべき入学金、授業料等の差額金一一七万四〇〇〇円。

(ヘ) 補習等のため教師謝礼

昭和五〇年三月四日から昭和五三年二月二八日まで金八万五三四〇円。

(10) 原告嘉久の慰藉料 金一〇〇万円

(11) 弁護士費用 金七六万円

4  よつて原告らは被告に対し、不法行為に基く損害賠償として、被告から支払を受けた金四九五万五〇七五円を充当した残額である次の支払を求める。

(一) 原告洋子は金二六四六万一三七六円及びこの内金二三四二万一三七六円に対する不法行為後の昭和五三年九月一日から、内金三〇四万円に対する一審判決言渡の日の翌日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(二) 原告嘉久は金四三一万一一三一円及びこの内金三五五万一一三一円に対する不法行為後の昭和五〇年一月一四日から、内金七六万円に対する一審判決言渡の日の翌日から、それぞれ支払ずみまで前同様の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告洋子の傷害の程度は不知、その余の事実は認める。

2  同2の(一)の事実中、被告が加害車の運行供用者であつた事実は認める。

同2の(二)の事実中、訴外石原は被告の被用者であり、訴外石原が市営バスの運行中過失によつて本件事故を起した事実は認める。

3(一)  同3の(一)の事実のうち、

(1)の原告洋子の後遺症の程度及び症状固定時は認めるが、逸失利益は症状固定時から一〇年間とし、そのうち四年間は在学中であるから逸失利益はなく、これを昭和五五年賃金センサス女子労働者の全年齢平均賃金を基礎にして計算すると、金一五二万八〇四〇円となり、これが相当損害額である。これを超える部分は否認する。

(2)の慰藉料額は争う。

(3)の弁護士費用は不知。

(二)  同3の(二)の事実のうち、

(1)の入院雑費は、一日金五〇〇円の割合による一五一日分金七万五五〇〇円は認めるが、これを超える部分は争う。

(2)の治療費は認める。

(3)の入通院交通費は認める。

(4)の家族付添費のうち、(イ)の事故当日の家族付添費は認めるが、その余は否認する。

(5)の医師、看護婦謝礼は不知。

(6)の電話代は不知。

(7)の物品等の損害は不知。

(8)の休学等による損害は不知。

(9)の進学が一年遅れたことによる損害は不知。

(10)の慰藉料は否認する。

(11)の弁護士費用は争う。

4  同4の主張のうち、被告が原告らに対し金四九五万五〇七五円を支払つたが、これらが本訴で請求した損害以外の損害に充当されたことは認めるが、その余の主張は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実のうち、原告洋子の傷害の程度を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在、成立に争いのない甲第二号証と原告正木洋子本人尋問の結果によると、原告洋子は入院一五一日を要する頭部外傷全身打撲の傷害を蒙つた事実が認められる。

二  責任原因

被告は、加害車の運行供用者であつたことは当事者間に争いがないので、自賠法三条により、本件事故によつて生じた人身損害につき賠償する義務があり、又加害車の運転手訴外石原は被告の被用者であるところ、訴外石原が被告の市営バスの運行中、ハンドル操作を誤つた過失によつて本件事故が生じたものであること当事者間に争いがないから、被告は民法七一五条一項により、本件事故によつて生じた物損につき賠償する義務がある。

三  損害

1  原告洋子の損害

(一)  逸失利益

(1) 原告正木洋子本人尋問の結果によると、原告洋子は本件事故のため休学し、その結果大学卒業が一年遅れたものであるから、昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日まで、昭和五五年賃金センサス、第一巻第一表の旧大、新大卒の二〇歳から二四歳までの女子労働者の年収金一七五万三七〇〇円を失つた。これをライプニツツ計算式により年五分の割合による中間利息を控除し、昭和五三年時の現価に計算すると(ライプニツツ計数〇・八六三八)、金一五一万四八四六円となる。

(2) 原告洋子の症状は、昭和五三年八月二四日固定したが、顔面の傷は女子の外貌に醜状を残すものとして自賠法別表後遺症等級一二級一四号に、むちうち症は局部に頑固な神経症状を残すものとして同一二級一二号に該当し、その併合により同一一級に当ることは当事者間に争いがない。

そして前掲甲第二号証、原告正木洋子本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、原告洋子の右後遺症による労働能力喪失率は二〇パーセント、その喪失期間は症状固定時から七年と認めるのが相当である(外貌の醜状については、傷痕が次第に薄れ、しかも髪形によつてはかくれる位置にあることは後記認定のとおりである。)。

そうすると原告洋子は、昭和五七年四月一日から昭和六〇年九月まで、昭和五五年賃金センサスによる前記二五歳から二九歳までの女子の平均年収金二三六万六四〇〇円の二〇パーセントを失うことになる。これから年五分の割合による中間利息を控除して、昭和五三年時の現価を算定すると合計金一二八万一四八九円となる(ライプニツツ計数は、昭和五七年四月から昭和五八年三月までは〇・八二二七、昭和五八年四月から昭和五九年三月までは〇・七八三五、昭和五九年四月から昭和六〇年三月までは〇・七四六二、昭和六〇年四月から同年九月までは〇・三五五三)。

(二)  慰藉料

前叙のとおり原告洋子は頭部外傷、全身打撲の傷害を蒙り、昭和五三年八月症状は固定したが、後遺症がある。

前掲甲第二号証、成立に争いのない甲第二三号証、原告正木洋子、同正木嘉久各本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、請求原因3の(一)の(2)の事実(但し、志望校に入学できなかつた理由が本件事故にあるとの点を除く。)ならびに原告洋子の顔面の傷痕はかなり薄くなり、その位置は髪形によつてはかくれる位置にある事実が認められる。

右各事実に本件事故の態様等諸般の事実を総合すると、原告洋子の慰藉料は金四五六万円とするのが相当である。ところで原告洋子は自賠責保険から既に金一四九万円の支払を受け、本訴ではこれを超える部分を請求するものであるから、その残額は金三〇七万円となる。

(三)  弁護士費用

本件請求額、認容額、事案の内容等諸般の事情によると、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は金六〇万円と認める。

2  原告嘉久の損害

(一)  原告洋子の入院雑費

原告洋子は前認定のとおり、本件事故による傷害の治療のため一五一日入院したものであるから、その入院雑費は一日金五〇〇円の割合による金七万五五〇〇円(このことは当事者間に争いがない。)とするのが相当である。

(二)  原告洋子の治療費

請求原因3の(二)の(2)の原告洋子の治療費計金二万四三二六円については当事者間に争いがない。

(三)  入通院交通費

請求原因3の(二)の(3)の入通院交通費計金七万一五一〇円については当事者間に争いがない。

(四)  家族付添費

本件事故当日である昭和五〇年一月一四日原告洋子の入院に家族が付添つた(イ)の費用金二〇〇〇円については当事者間に争いがなく、原告正木洋子、同正木嘉久各本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、原告洋子は昭和五〇年五月二九日から同月三一日まで三日間大船共済病院に通院したが、その間家族の付添(一日金一〇〇〇円)を必要としたこと、昭和五〇年六月七日から同年一一月三一日まで二〇回針治療のため通院したが、原告洋子の傷害の程度、当時の症状、年齢、通院の距離等の事情を併せ考えると、そのうち家族の付添を要したのは初回と最終回の二回と認められるので、その家族付添費は、一回一〇〇〇円の割合による金二〇〇〇円となる。

(五)  医師看護婦謝礼

原告嘉久の主張する医師看護婦への謝礼は、本件事故と相当因果関係を有しないものと認める。

(六)  電話代

原告嘉久の主張する電話代は、前認定の入院雑費のわく内でまかなうべきもので、入院雑費のほかに電話代を認めるのは相当でない。

(七)  物品等の損害

原告正木嘉久本人尋問の結果によつて成立を認める甲第八号証の一ないし一二、同本人尋問の結果によると、原告洋子は本件事故のため、身に付けていた衣類、眼鏡が破損したり血等で汚損し、所持していた鞄、弁当箱が使用できない程度にこわれたり変形したこと、購入していた定期乗車証が事故のため使用できなかつたこと、又既にYMCAに授業料を払込んでいたところ、事故のため授業に出られなかつたこと、そのため請求原因3の(二)の(7)の(イ)ないし(ハ)、(ヘ)ないし(オ)の合計金一三万九八三〇円の損害を蒙つたことが認められる。

しかし同(ニ)薬品、(ホ)クリーニング代(衣類そのものを損害としたのでそのクリーニング代はない。)が本件事故による損害と認めるに足りる証拠はない。

(八)  原告洋子の休学等による損害

原告洋子は、前認定のとおり、昭和五〇年四月から通学を始めたが、同月二〇日休学し、弁論の全趣旨によると、そのため少くとも一学期分の授業料(金一万円)、学年費(金一万円)、教科書代(金七〇〇〇円)、を必要とし、通学のためバスの定期乗車証二ケ月分(金七一八〇円)、国鉄の定期乗車証六ケ月分(金四五二〇円)を要したものと推認される(合計金三万八七〇〇円)。

しかし、ズツク、体操着、定期乗車証の値上による損害についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

又原告洋子は、前認定のとおり長期の入院をし、その後通院治療に時間をさかれ、そのため一年休学したことから考えて、その補習は必要であつたものと認められ、原告正木嘉久本人尋問の結果によつて成立を認める甲第九号証の一、二と同本人尋問の結果によると、原告洋子の数学、物理の補習のため金二六万円、英語の補習のため金二一万五〇〇〇円を要したことが認められる(合計金四七万五〇〇〇円)。

しかし、習字、ペン習字、ピアノの補習費及び本代は、本件事故と相当因果関係は認め難い。

(九)  原告洋子の休学及び進学が一年遅れたために生じた損害

原告正木嘉久本人尋問の結果によつて成立を認める甲第一二号証の一、二と同本人尋問の結果によると、請求原因三の(二)の(9)の(ハ)の学費の値上がりによる損失金七万円、(二)の寮費の値上がりによる損失金四万円が認められ、これは本件事故と相当因果関係を有するものであるが、その余の(イ)、(ロ)、(ホ)、(ヘ)の損害は、本件事故と相当因果関係を有するものとは認め難い(特に国立大学に入学できなかつたことによる損害は、原告洋子の学力が一応合格圏内にあつたことは認められるが、入学試験は競争試験であるから、そのことから直ちに合格できたものとすることはできない。)。

(一〇)  原告嘉久の慰藉料

子の傷害による父の慰藉料請求は、死にも比肩すべき程度の傷害の場合に認められるところ、前認定の原告洋子の傷害はいまだその程度にいたらなかつたものであるから、原告嘉久の右請求は理由がない。

(一一)  弁護士費用

本件請求額、認容額、事案の内容等諸般の事情によると、原告嘉久の弁護士費用は金一〇万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上のとおり、原告洋子の請求は、金六四六万六三三五円及びこの内金五八六万六三三五円に対する不法行為後の昭和五三年九月一日から、内金六〇万円に対する本判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告嘉久の請求は、金一〇四万一八六六円及びこの内金九四万一八六六円に対する不法行為後の昭和五〇年一月一四日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

(別表)別表一 逸失利益計算表(症状固定時)

〈省略〉

別表二 資料5 休学したことによる損失経費

〈省略〉

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